イケア船橋店視察の目的は、船橋においては病院とヤクルト以外に聞いたことのない事業所内保育施設をあえて設置した経緯を伺うこと、それから、障害者雇用に対する考え方を知ること、であった。
イケア船橋店で働く障害者は現在9名。
オープン当初から法定雇用率を達成しているが、「来週からさらに4、5名の障害者のトライアル雇用がジョブコーチの指導のもと1、2ヶ月の期間でスタートする予定です」と人事担当の責任者は語る。障害者雇用についてイケアはどのような考え方で取り組んでいるのであろうか。
日本の場合、障害者が障害のない人と同様に、その能力と適性に応じた雇用の場に就くことができる社会を実現するため、常用労働者数が56人以上の民間企業は、1.8%(56人に対して1人)の障害者を雇用することが義務づけられている。
法定雇用率未達成の企業は、未達成分の障害者一人当たり月額5万円の納付金を納めなければならないとされているが(このペナルティーは当分の間、常用労働者301人以上の企業について適用)、法定雇用率はこれまで1度も達成されたことはなく、厚生労働省の統計では平成17年度の障害者雇用率も1.49%にとどまっている。
イケアの場合、『Diversity=多様性、違いを受け入れ、尊重すること』という企業理念を掲げており、障害者雇用の取り組みもここから出発している。「私もイケアに入る前、国内の企業で人事を担当していた経験がありますが、そのときは、(障害者雇用については)法律で義務づけられている数字の確保ということがまず最初にありましたが、実際に各部門への障害者の配置について、どのような作業があるのか研究し、実施した結果は、彼ら(障害者)から学ぶことがたくさんあるということを実感しています。
障害者の方が健常者よりもよほど良い仕事をしているということもありますし、何よりも人間らしさを忘れずに仕事ができる環境が育っていると思います」。
イケアの障害者雇用への取り組みは法定雇用率の達成のみに止まらない。
「あくまで日本でのイケアの事業が軌道に乗っての話ですが、2年目以降は法定雇用率の2倍を目指そう、その後は3倍を目指そう。それがDiversityなのだ。これが社長の意向です」
イケアは船橋店出店に際し、障害者雇用についても県の雇用促進課と密接に連携を取りながら、オープンの2ヶ月前からトライアル雇用を実施している。また、国内法で定められた雇用率達成のため、この分野では豊富なノウハウの蓄積を持つオリエンタルランドに通って学ぶなど、多大な努力を払っている。
国内企業の障害者雇用が法定率を下回り続けるなか、新進の海外企業が法定率の3倍を目指そうと謳っている現実。この国は理念とそれを実現するための施策がちぐはぐというか充分に吟味されていないといわざるを得ない。それはとりもなおさず私たち政治家の責任でもある。
では、どこがまずいのか?少し長くなるが、やはり外資系企業の人事担当者から伺った話を以下に引用させて頂く。
『障害者雇用促進法に定められた雇用率(1.8%)を達成するため、10年前から取り組んでいるが、入っては辞め、入っては辞めの連続でうまくいかなかった。国の機関から高名な先生を招いたりもしたが、全て駄目だった。昨年(2004年)にプロイジェクトチームを立ち上げ、検討した結論は『(従来のように)社員が(障害者雇用)を担当するのはやめよう』ということだった。社員はそれぞれ現業をもっており、障害者雇用、定着のために割ける時間は自ずと限られている。職場への定着を目指すならば、障害者雇用に精通している人をリクルートしようという結論になった。
ジョブコーチを社員として移籍させて欲しいと県の商工労働部に掛け合った。前代未聞のことで、説得にかなりの労力を要したが、2名のジョブコーチを正社員として迎え入れることができた。作業指導は社員が行ない、障害者が職場に適応するための様々なケアはジョブコーチが受け持つとの役割り分担のもと今年(2005年)2月から10名の障害者(身体障害者1名、知的障害者9名)の職場定着の試みがスタートした。半年経った現在も辞めた人は一人もいない。
定着のための工夫のひとつとして、職場で問題があった場合の解決法についても色々考え、些細なことでも保護者を交え十分に話し合うことにした。また、話し合いの場には必ず総務部長、人事部長が入ることにした。現場の次長、課長任せでは、「何でこんな作業ができないの」など、結局、障害者を非難する話になってしまう。
それでは定着に結びつかないということで、部長も入って話し合うことことにした。また、特定の人をひいきしているという批判を保護者から受けないよう大会議室で全員に参加してもらって話し合うようにした。現在、障害者雇用率は1.2%だが、年内には法定雇用率(1.8%)達成に自信をもっている。』『数字上、法定雇用率を達成している企業はたくさんある。
ただ実態をみると、障害者雇用を下請けに押し付けて数だけ上げている、いてもいなくてもよいという考えでやっている企業も少なからずある。私たちは障害者雇用に真剣に取り組んでいることを1%の方に支持していたでければよいと考えている』
イケアを含め、ここに引用した国際的な企業はその国で事業展開を図る際、当然のことながらその国における法令遵守ということを考える。障害者雇用についても日本では法律で雇用すべき人数が決まっているからまずは、その達成のためにどうすれば良いのか考える訳だが、そのための相談・支援体制の窓口が縦割りで面倒くさい、何でワンストップサービスでできないのかというのが不満のひとつ。また、私たちは国内法令を遵守しているのに、それが積極的に評価されないのはどういうことか、という思いがある。
例えば、アメリカの場合、日本のように法律で障害者雇用を義務づけることはしない。ただ、障害者雇用の状況は、企業の格付けのうえで大きなウエイトを占めている。最終的な評価は消費者と投資家に委ねるという考えなのだろう。
日本においても、自治体発注工事の入札参加資格に障害者雇用状況を追加し、法定雇用 率の達成企業に点数を加算するなどの事例がちらほら見られるようになりつつある。
こうした事例も参考に、障害者雇用について、真剣に取り組む企業に対する支援を行政として何ができるのか。私自身研究してゆきたいと思っている。
つのだ ひでお(角田 秀穂)
略歴
1961年3月 東京都葛飾区生まれ。
創価大学法学部卒業。
上下水道の専門紙・水道産業新聞社編集部次長を経て、1999年から船橋市議会議員を4期、2014年から2017年まで衆議院議員を1期務める。2021年10月2期目当選。
社会保険労務士。