3月議会で療育支援と特別支援教育について質問した背景にはこれまで市内の教育現場等を訪ねて、私なりに受け止めた問題点を議会で取り上げるとともに、少しでも支援施策が前進するよう提案をさせて頂きました。今回質問を行なった背景として、現場へ足を運んでの調査以外に、長くアメリカで発達障害児のための教育コーディネータを務められた方のお話も私自身大いに参考になりました。この機会に話の要旨を記します。
全米の障害者数は軽度から重度まで含め600万人。95年から96年にかけて自閉症児は2万8000人いる。
インクルージョン教育への流れ。75年に3歳から21歳までの公教育を無料とする法律が成立、療育には早期の診断・査定、早期介入が必要なことから、80年には0歳から無料とするように拡大。この結果、障害児教育は0歳から21歳まで無料となった。92年障害児をより拘束の少ない環境≒普通学級へ措置することを定める改正法が成立した。ただし、障害児を一律に普通学級に措置することを強制してはいないことに留意が必要。障害児のニーズにマッチするプログラムにつかせるということ。
障害児一人当たりの公教育費は3万3000ドル。インクルージョン教育に政治が目を向けた背景についても考える必要がある。
インクルージョン教育実施に対して全米LD児親の会は反対運動を展開した。子どものためには専門的な知識とスキルと設備が必要と訴えた。インクルージョン教育は非現実的なインクルージョンまで強制するものではない。
障害児を受け入れる側の教師の考えはどうか。インクルージョン教育の必要性は理解しても、専門知識や経験の欠如から受け入れ難いと思っている。IEP(個別教育プログラム)の作成責任も大きな負担だ。
フルインクルージョン、パーシャルインクルージョン、完全に分離された特殊教育のうちどれが最も有効かを教師に問うた場合、パーシャルインクルージョンが有効と考えている教師が最も多く、次いで分離教育を挙げる者が多い。
インクルージョン教育を成功させるにはクラス内の障害児の数もカギ。ニューヨーク市の場合はキンダー(幼稚園)から小学校3年生までは16人から18人に担任とアシスタント2人が配置されている。障害児がいればさらに加配される。小学校中学年(4、5年)で1クラス28人+障害児8人、これに対して担任1人、障害児担任1人、アシスタントの計3人体制で、指導に当たっている。
普通学級を含め、障害児をどのような環境に措置するかの判断のベースは必須科目の学習効果がどの環境で最も向上するのか、必修科目以外の社会性、言語行動発達が期待されるか、本人にとってどのような能力が必要なのかなど。
日本におけるインクルージョン教育成功のための課題
フルインクルージョンは障害児のニーズに答えられるサービスが提供されなければ意味がない。従って以下のような環境整備が求められる。
・ クラス担任は障害児に対する教育を適正にかつ効果的に行なうことができる教員であること。障害児への指導、クラスマネジメントを効率的・効果的に行なうことができる能力を有していること。
・ 学校全体で係ること。特にクラス担任と校長等管理職は障害児への態度に留意すること。
・ クラス担任が障害児の不適切な行動に対応する技能を持っていること。(一部の自治体で普通学級在籍障害児へのサポーターを導入しているが、クラス担任が障害児への対応をサポーターに任せきりで連携が取れていないケースが多い。サポーターが休んだとき担任はどうするのか?)
・ 全ての児童に対する授業レベルが下がることのないような指導ができること。
・ 障害児の状態を随時把握していること。
・ 教師の授業をモニターし必要な指導研修を行なう。校長教頭も特別支援教育の専門家であることが求められる。
・ 人権問題と教育問題の混同を避ける。保護者の意見聞くことは法令上規定されているが、こどものニーズを客観的に見なければこどもも苦労することになる。
・ 個別教育プログラムの作成方法について全ての教師が共有すること。IEP作成のもととなる学際チームの設置が必要になる。一人の患者に専門家が出て診断査定に当る。(ソーシャルワーカーがまず資料を集める。小児科医、臨床心理士、言語聴覚士必要に応じて作業療法士、理学療法士、精神科医)
・ 大学の特殊教育の充実。双極性障害への知識も必要。実習期間の延長。
・ コーディネータの訓練。アメリカはソーシャルワーカーがこの役割りを担う。
・ 医療・福祉など専門家による支援チームが絶対に必要。(例えば児童精神科医の数は日本が100人に対してアメリカは4万人)
・ 専門医が薬を処方した後、必ず家庭や学校からのフィードバックをもとにフォローすること。(リタリンをいわれるがままに処方するような精神科医など論外)
・ クラス全体の理解を求める努力
・ インクルージョン教育に対する保護者の理解の徹底。(健常児の保護者から必ず不満の声が上がる。何故、共生を教えるのか、根底の哲学、目標とするところを保護者に理解してもらうための粘り強い努力が必要。保護者の協力なくしてインクルージョン教育の成功はない)
日本人はひとたび決めた目標を達成するため、精密なプログラムを組み立てることに関しては極めて優れた能力を持っており、特別支援教育へのチャレンジも恐らく成功させるだろう。ただし、その過程で犠牲者も出てくるだろうと思っている。犠牲者となるのは特に現場の真面目な教師だ。燃え尽き症候群に陥らないことを願う。この国で犠牲者を出さないための方策は何か。教師の雑用からの解放と、モンスターペアレントの一掃だと私は感じている。
つのだ ひでお(角田 秀穂)
略歴
1961年3月 東京都葛飾区生まれ。
創価大学法学部卒業。
上下水道の専門紙・水道産業新聞社編集部次長を経て、1999年から船橋市議会議員を4期、2014年から2017年まで衆議院議員を1期務める。2021年10月2期目当選。
社会保険労務士。