制度の壁を乗り越えた先に広がる地平〜富山型デイサービスの現場で〜

”子どもから高齢者まで、障害のあるなしに関係なく一つ屋根の下で暮らせる”そんな共生社会の実現を目指す試みとして、平成15年から構造改革特区事業として実施されていたいわゆる「富山型デイサービス」(制度的には高齢者を対象とする介護保険の通所介護事業所でも知的障害者、障害児のデイサービス利用を可能にすること)が10月から全国どこでも実施できるようになった。当然、私の住む船橋でもやる気になればできるようになった。

富山型デイサービスは、平成5年富山赤十字病院に勤務していた3人の看護師が退職金を出し合って開設した『デイケアハウスこのゆびとーまれ』から始まった。現在のNPO法人「デイサービスこのゆびとーまれ」理事長惣万佳代子さんらが、”お年寄りがお年寄りらしく生きられる居場所”をつくりたいという”当たり前の動機”から行動を起こし、縦割り行政の壁、制度の壁と闘いながら、徐々に共感の輪を広げ、富山型デイサービスとして全国的な評価を得るまでの経緯は『このゆびとーまれの公式ページ』に詳しい。
たった3人から始まった富山型デイサービスが、どこでも実施可能な新たなスタンダードとなった。富山型デイサービスはこれから全国に広がってゆくのか。『このゆびとーまれ』の西村副理事長は「制度化されたことが本当に喜ぶべきことなのかどうか」とも語る。

制度の壁を乗り越えた先に広がる地平〜富山型デイサービスの現場で〜

このサービスの草分けとなった「このゆびとーまれ」を訪問した私自身の感想は、何と言っても自然な雰囲気。開放的な室内の片隅に椅子に腰掛け本のページをめくるおじいちゃんがいて、その傍らでおしゃべりしながら手作業をする子どもとおばあちゃんがいて、いっしょになって談笑するボランティアの学生がいて・・・。みなそれぞれに認知症や知的障害などハンデを負っているのだが、お年寄りから子どもまで障害のあるなしにかかわらず一つ屋根の下にいる、そんな空間が何とも自然で、そこに身を置く私自身も落ち着ける、いつまでもここに腰を落ち着けていたい気分になる(但し、私たちの応対をする間も西村副理事長はじめスタッフの方々は周囲への目配りを常に怠っていませんでした。即ち自然な空間を維持するためには多くの人手を必要とするということです。)

さて、今後こうした自然なかたちのデイサービスが全国的に広まってゆくのだろうか。そもそも富山型デイサービス発祥の地である富山市では今後の展開についてどのように分析しているのか。(障害者のデイサービスについては訪問した時点でもまだ混乱があり、行政としても正確なデータを示すことはできませんでした。この点についてはご容赦ください)
「富山型デイサービスを標榜する事業所は市内で30以上ありますが、ほとんどは介護保険(高齢者)のみの利用で、障害者を受け入れている施設は極めて限られています」とは富山市障害福祉課の説明。
「制度化の善し悪しはこれからの流れの中で見極めていかなければなりません。私たちは目の前のニーズに合わせていたらこうなったといこと」とは『このゆびとーまれ』の西村副理事長の弁。
制度の壁を乗り越えたといっても、事業所の経営を左右する肝心の制度は依然として縦割りのままだ。高齢者については介護保険、障害者については自立支援法に基づく報酬、障害児についてはレスパイト事業に対する助成といった具合で、こうした事業を永続させるために責任を持つセクションが少なくとも国には存在しない。また、”高齢者から子どもまで、障害のあるなしにかかわらず一つ屋根の下で”という形態でのサービス提供をするかどうどかは、事業主体の考え方次第でもある。
「私たちもこのかたちが決してベストだとは思っていません。高齢者だけのほうがよいという方はそちらに行けばよいし、要は利用者の選択の問題です」
ただ、そうした選択肢が身近にたくさんあることの意義は大きい。「誰もが一つ屋根の下で」という理念を持つ事業所が育つ環境づくりをこれからはそれぞれの地域が考えてゆかなければならない。

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